前回までは「完全系の音程」を5度(4度)を中心にかいつまんで記してまいりました。今回は完全8度と完全1度を加え、4声体の中で響きを聴くことと、バッハの2声のインヴェンション1番をほんの少し分析してみましょう。
この練習をすることは、機能和声の初歩への基盤づくりとなります。西洋クラシックの機能和声においては、縦の線、横の線の絡まりを理解することが主流となります。
ちなみに、ドビュッシーの時代は、東洋の文化がフランスに流入してきた時。ドビュッシーはポエムから霊感を得て作曲したと言われていますが、そこに機能和声ではないもの、完全5度などの連続、2度や9度音程、音階ならば五音音階などを使い、独自の世界を構築したいと思ったのでしょう。
ドビュッシーは音色においても、わざわざよく響かない音を使ったりしています。「牧神の午後」の頭のフルートの音cisなど。でもこの音色はこの楽曲には必要なのですね。「これはいい音、これは悪い音」と決めつけるのではなく、教科書的には悪い音と言われている音にも独自の響きがあると。
余談ですが・・・
機能和声の曲を書くつもりはないから、和声は必要ないというなら、それで良いと思います。また、西洋の古典の曲から何かを得て、独自の創作をするつもりなら必須だと思います。この場合は、音楽史の勉強もすると良いかもしれません。それぞれの考え方がありますので、独自のやり方を貫くことが良いと思います。
完全1度 完全8度の音程
上記の楽譜はフルート オーボエ クラリネット バスーンの4声です。
A)完全1度、完全8度の音程です。フルートとオーボエで鳴らしています。
B)横の流れをみてください。クラリネットのH→C バスーンのG→C 完全1度の使い方の1例です。完全1度の音に導かれることで、解決と感じられるでしょうか?このような感覚を磨くために(楽器をやっている方なら自然と持っていると思いますが)和声の訓練をするのです。
4声体の中の完全5度、完全8度
上記の譜面の中で、赤枠は完全8度 青枠は完全5度です。4声体での5度の連続、8度の連続を響きだけで突き止めることが、望ましいです。
連続する5度 8度は、曲中では声部の独立性が必要でない部分に意識して使うことがあります。では、声部の独立性が必要な部分とは??ポリフォニックな曲調です。言い換えれば、前者が縦の線 後者が横の線ですね?
連続5度 連続8度が禁則とされている理由は、声部の独立性を学ぶためです。流麗に横に流すためには避けなければいけないということでしょうか?ただし、これは機能和声の中のお話ですので、機能和声など必要でない方は、無視していいでしょう。
闇雲に決まり、決まりと決めつけるのではなく、裏に何があるのか追求することが最も大切なのではないかと考えます。
下の譜面は上の譜面の連続する5度 8度を除外したものです。1〜2小節のクラリネット バスーンのオクターブはそのままにしてあります。理由は同度なので(動いていないので)違和感がないからです。
クラシックの和声は縦の線(和音の種類)だけではなく、横の線(旋律)も重視することが特徴です。上の譜面で色付きの部分を模倣と言います。模倣とは、ポリフォニックでは必須の技法です。慣れてくれば考え込まなくても、ポリフォニックな曲を作ることができたり、4声体においても無意識のうちにポリフォニックな部分ができていたりします。
考え込まなくてもできてしまうことが大切です。考えこんで書いているうちはマスターしたことにはなりません。それには練習が必要となってきます。
バッハの2声インヴェンション1番
インヴェンションの有名な1曲ですね。この楽曲の場合、テーマ(赤枠)は完全8度で受け渡し、続けて完全5度(青枠)上でも受け渡ししています。3小節目の第一音までが提示部です。
この曲は8度 5度が中心の曲ですので、意識して弾くことが大切。2小節目1拍目、左手の8度、低音部をおろそかにしないこと。オクターブが重音になっている場合も同じで、平等に音を出す必要があります。
最初の転調は完全5度上のG-durです。完全5度上の調性は属調、完全5度下の調性は下属調といいます。どちらもC-durからみて近しい調ということで、近親調と呼ばれています。近親調には他にもありますが、今はこの二つだけを覚えてください。
このように完全音程の5度 8度のみを取り出しても多くの気づきがあります。楽典の書籍をそのまま記憶するだけでは、義務教育の音楽の授業とあまり変わらず、面白みがありません。色々な方向へと発展させ、生徒さんの可能性を引き出せるような指導者の門をたたきましょう。
今回もYouTube動画アップしました。↓ からどうぞ。
コメント
コメント一覧 (5件)
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的外れでしたらお許し願いたいのですが、完全8度の連続が禁則、のことでよくわからないのですが、ハイドンやモーツァルト、ベートーベンやショパンでもですが、完全8度の連続って結構ありますよね。ああいうのはOKなんですか、対位法的な曲での問題なのでしょうか、馬鹿な質問で恐縮です。
完全8度の連続を使って効果が悪い場所と、効果が良い場所があります。古典派の場合でも、音の厚みが必要な部分、fやffなどでは完全8度の連続はよくありますね?このような場所は、音楽的に必要だからやっているわけです。古典派だけではなく、現代曲で調性のある楽曲でも使いますよ。声部の独立性を必要とするのではなく、ガンガンいってほしい部分ではそのようにしますね。
他には、ピアノの右手のメロディで、オクターブの連続を一部でも使ったほうが良しと、作曲者が意識している場合は良いと思いますし、わたしもそうしています。
ショパンのエチュードで、全てオクターブの曲はありますが、和声の課題ではなく、芸術的作品ですのでこれで良いと思います。連続8度 5度とは意味が違うことを理解しなければだめです。
声部の独立が必要な楽曲や、独立性重視の部分。流麗に柔らかに聞こえさせるためには、かたまりで聞こえてはまずいわけでして・・感覚として連続は使わないようにしてます。感覚として使いたくないんです。この「感覚を鍛える」ために和声の勉強をいたします。
連続5度や8度を禁止するのは、機能和声の勉強上でのことです。勉強といっても、これはダメ、あれはダメと決まりを覚えて書くのではなく、感覚を鍛えるために勉強します。今回は5度、8度の響きを考え込まなくても、感覚で理解してほしい!と説明したつもりです。
この機能和声の勉強と、作品を書くこととは別の行為です。
だからといって何も知らないで書いていけば、天才でない限り、行き詰まりがきます。引き出しが少ないから・・・
この質問は至る所でされていますが、一朝一夕にはいきませんね。「わかる」ことの感覚が文字だけでは難しいですから。また音楽でも絵画でも直接的表現ではないので、理解し難い面もあります。どれだけ言ってもわからない方はわからない。パリオリンピックのオープニングなどが良き例で、わからない人には「極悪」としか映ってないようですね。あれと同じです。全て理屈で解決できる問題ではないので、難しいです。
ありがとうございます。よくわかりました。そういうことなのですね。
では、次回も楽しみにしています。
ご返信ありがとうございます。この件については、たくさんの方が同じような質問をされています。一言では説明し難いものがありますが、多少は理解していただいて嬉しく思います。このシリーズは継続するつもりなので、ご覧いただいているうちに、だんだんとわかってくるかもしれません。今後ともよろしくお願いします。