音楽の内側に触れる〜楽曲分析2 ショパン作曲 「ノクターン2番 op.9-2」
大変有名な楽曲です。旋律が美しいので、他ジャンルの編曲もの、映画音楽などの劇伴奏用音楽としても使われています。
この曲はジョン=フィールドのノクターン1番を下敷きにしていると思います。お聴きになれば、ショパンのノクターンの断片がちらばっていることに気づくでしょう。ちなみにフィールドはソナチネでお馴染みのクレメンティの弟子(一番弟子?)で、師匠と共にヨーロッパ各地を回ったようです。クレメンティはビジネス的な手腕に長けており、自分の作品や教育方法の宣伝のために、フィールドを利用したと言われております。
概略
小規模なロンド形式。歌曲風であり、メロディの装飾により、流動的な印象を受けます。和声的には、減七の和音や主音上の減七が多用されています。同じノクターンでも、このあたりがフィールドとの違いです。
ロンドとは、繰り返しの部分–循環部(A)と繰り返しに対する部分–対照部(B)とでなりたつ形式です。この楽曲は、A-A1-B-A2-B1-A3-Codaの形をとっています。
左手が伴奏形で右手がメロディ。それだけではなく、ポリフォニックな部分やさまざまな工夫も随所に見られます。対照部では、2人の歌い手がオーケストラの伴奏で歌っているような風景も浮かびます。
循環部A・ A1

循環部の特徴は主に下記3点です。和声については詳しく触れません。
- 上行跳躍音程(赤で囲んだ部分)
- 倚音や倚和音、後部倚音(青で囲んだ部分 波線)
- 刺繍和音や刺繍音・掛留と転位音による波のような旋律(黄緑色で囲んだ部分)
前回の記事で主たる非和声音について説明しましたので、必要があれば下記記事をごらんください。


倚音は、拍の表や強拍の位置に生じる非和声音であり、後部倚音は、拍の裏や弱拍の位置に生じる非和声音です。

刺繍和音とは刺繍音の集合体です。加えて主音上の減七とは、主音の上に減七の和音が乗っている形です。
主音es上でⅠ→減七→ Ⅰと減七と動く和声。この動きが旋律を盛り立て、物憂げでロマンチックな雰囲気を醸し出しています。
循環部A 1小節目の旋律は、掛留と転位音でできています。(上記楽譜参照)転位音とは、和声の構成音が隣接する音程に移動することを指します。この例ではfの音がgに動いています。上に動いているのですから、上方転位といいます。一見したところ刺繍音的な形をしています。
上記の減七は別名準固有和音といいます。準固有和音とは、同主調の和声を借りることを意味します。この場合はes-mollのⅦ₇ということになります。
もしこの和声が、Ⅰ→Ⅴ₇→ Ⅰであったならば、人々の耳にこれほど馴染まなかったかもしれません。
対照部

対照部Bはアウフタクトから入り、属調のB-durに転調します。
歌に例えるならば、循環部がソプラノソロ、対照部は男声と女声のデュエットのようにも感じられます。下記楽譜は、対照部のメロディを女声と男声に置き換えた例として書いています。

女声はピンクで囲んだメロディ、青い線で囲んだメロディは1oct,下げて男声として考えてみました。
その後は、循環部A2→ 対照部B1→ 循環部A3と進み、終結部に入ります。
終結部

上の楽譜はCodaの一部分です。下記ABAの音型を発展させ、形をかえて拡大していきます。


- 上段のA-B-AはCoda1〜2小節目にかけての和声です。
- 下段は上段の意味をつなぎ、A(Es:I度)でB(1.5小節)をはさみこんだ形です。全体で2.5小節あることから、実質的に拡大していることになります。クライマックスに向けて、フレーズを長くしているのです。
- 発展させるとは、音型を別の方法で言い換えて、意味をつなぐことです。ショパンはおそらく、意図的に行なったものと思われます。ピアニストであったせいか、即興風の楽曲が多い印象がありますが、全てではありませんでした。
加えて、赤色で囲んだ上行音型も、フレーズが長く華やかになっていき、こちらの楽譜の6小節目 8分音符で数えて9拍目でクライマックスをむかえます。
短い曲ながら様々な工夫がされていることを知っていただければ幸いです。今回は非和声音を中心に、基礎的な曲の展開方法など、簡単に紹介させていただきました。創作のヒントになれば幸いです。
音源
JazzPf 音源
二見勇気さんの演奏です。途中レッスンがわりの「言葉」が入ります。
- Grandioso! 壮大に espressivo 表情豊かに 一つ一つのフレーズに意味があるということでしょうか?指を動かしているだけではダメということでしょうね。
- クラシックのフレーズも入ります。Mozartとありますが、ベートーベンでは?>ピアノソナタ1番1楽章の1テーマ頭
- drop2 密集4声体のアルトを1oct下げて、配置を変える。響きが違います。
- クラシックの場合は、密集の和音を開離にするとき、バスを保ったまま、アルトを1oct下げると開離になります。芸大和声には書いてありませんが、大和声教程(廃刊)にはこのように書いてありました。わたしは大和声を使って勉強を始めました。ただ、非常に難しい。書いてあることを理解するには、曲を知っていないとダメです。また、自由なだけに感覚をもっていないと全然進みません。大和声と比べると芸大和声は一般的で、初心者にもよりそった書き方をしてあると思います。
- 非和声音として ペダルポイント=保続音です。
- モティーフの展開の仕方もされています。起承転結でしょうね。
以上簡単な説明です。

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